2021年度 活動日誌

7月 活動日誌

2021年7月31日
GJOコーディネーター 高木 伽耶子

今年3月末から始まったコロナワクチン接種が進み、様々な規制が緩和されてきています。特に、屋外でのイベントは(諸々の条件はあるものの)許可されているケースが多く、毎年恒例の夏至祭の催しも行われ、多くの人が集まりました。

夏至祭が行われるサンタカ公園の様子(Santaka park during Midsummer festival)
撮影:アルヴィーダス?クンピス(Photo by: Arvydas Kumpis)

一方、屋内での活動は未だに制限が多く、9月から始まるヴィータウタス?マグヌス大学の秋学期の授業も全てオンラインで行われることになりました。対面での授業を望む声は多く、カウナスで過ごす大学生活を恋しがる学生の気持ちは痛いほど伝わってきます。

7月?8月は例年大きな学内行事もなく、学生たちは帰省先でのんびりと過ごすか、旅行に行くか、または近隣の国でアルバイトに明け暮れるかというのが定番の過ごし方です。ワクチン接種を終えて移動の自由が得られた人たちは近場に旅行に行っているという話も聞こえてきます。夏休み明けに学生たちから話を聞くのが楽しみです。

夏期休暇中も日本語の勉強を続けたいという学習者向けに、いくつか日本語に触れられる機会も提供されています。4月から継続しているチェコ?リトアニア日本語交流会(チェリ会)や毎週水曜朝9時の「日本語でニュースを読む会(Reading News in Japanese)」などに加えて、VMUのすべての日本語コースを修了した学習者向けの「VMU夏期日本語中級短期コース」も開講されました。このコースにはVMUの学生の他に、卒業生や教員、計9名が参加しました。コースを通じたテーマは「留学することの意義」についてです。6月末から7月上旬にかけて5回の授業が行われました。参加者全員が日本への留学経験者だったため、非常にユニークで興味深い留学体験談を聞くことができました。第4回目は、本学とパートナーシップを結んでいる岐阜大学との合同授業が実現しました。岐阜大学では、今学期から一般教養科目として「リトアニア学」という講座を開講しており、受講者たちは多様な講師からリトアニアにまつわる様々なことを学びます。合同授業では、リトアニア側の参加者たちが自らの考える「留学することの意義」について10分程度のプレゼンテーションを行い、その後、お互いに留学について話し合いました。留学を一つの目標として東アジア研究プログラムへ入学してくるVMUの学生たちにとって、留学をあまり意識しない学生たちの意見はとても新鮮だったようです。反対に、岐阜大学からの参加者からは、授業後に、留学について考えるようになったという意見も聞こえてきました。日本語会話の練習のための交流ではなく、互いに学び合ったり刺激し合ったりできる機会の重要性を、参加者たちの様子から改めて感じることができました。

また、同じリトアニア学の講義の一つとして、カウナスの杉原記念館の様子をライブで配信する「スギハラハウス?バーチャルツアー」も行いました。杉原記念館のスタッフであるエグレ?ジヴリブリーテー(Egl? ?virblyt?)さんが案内役となり、館内の展示を紹介しながら、当時のカウナスの様子や、杉原の辿った運命、杉原が発給した「命のビザ(Visas for Life)」で生き延びたユダヤ人たちのその後など、45分にわたって説明してくれました。残りの時間は質疑応答に充てられました。40人が参加する授業だったため、事前にLINEにオープンチャットルームを作り、そこに質問を書いてもらう方法を取りました。上記の合同授業を行う前に、参加学生に「今までリトアニア学の授業で講師に質問をしたことがある人は?」と問いかけたところ、40人中5人しか質問をしたことがなかったことがわかりました。たくさんの人の前で手を挙げて質問をするというのは、やはり心理的なハードルが高いようです。これはリトアニアの学生にも見られることです。しかし、バーチャルツアー後、オープンチャットには18人もの学生が質問を書き込んでくれました。そして、エグレさんはそれに一つずつ丁寧に回答してくれました。岐阜大学ではすでに対面で授業が行われていたため、講義室の大きいスクリーンにライブビデオを映し出す形式になりましたが、積極的に質問してくれた学生たちのお陰で、一方通行の授業ではなく、双方向のやり取りのある授業になりました。

オンライン授業にすっかり疲れてしまったVMUの学生たちですが、やはり日本の同世代の人たちと交流できる機会は楽しみにしている人が多いようです。今後も授業内外でそのような時間をできるだけ多く設けて、オンラインの強みを発揮していきたいと考えています。

シュケボニース露頭から見えるネムナス川のカーブ(Bend of Nemunas as seen from top of ?k?voniai outcrop)
撮影:アルヴィーダス?クンピス(Photo by: Arvydas Kumpis)

6月 活動日誌

2021年6月30日
GJOコーディネーター 高木 伽耶子

今年の6月のリトアニアはとにかく暑いです。30度を超える日が数日続き、とても欧州の北の国に位置する国だとは思えない気温でした。

ヴィータウタス?マグヌス大学の学生たちは6月の上旬に無事にオンラインの期末試験を終え、夏休みに入っていきました。日本語教員としては、夏休みの間も日本語に触れていてほしいと願うばかりです。

今月21~23日には卒業式が行われました。オンラインでの開催も考えられていましたが、規則が緩和されたことで、学生たちは無事に憧れのローブと帽子を身に着けて、友人たちと一緒に大学のメインホールで卒業証書を受け取ることができました。教職員も、久しぶりに学生たちの明るい笑顔を近くで見ることができ、特別な気持ちで卒業生たちを見送りました。

6月23日に卒業した東アジア研究プログラムの学生たち

リトアニアでは留学帰国生や卒業生が日本語を学ぶ場が非常に限られているという問題があります。VMUの日本語コースは3年で、すべてのレベルを取り終えても中級前半程度の内容までしか学ぶことはできません。今年東アジア研究プログラムを卒業した学生たちの中にも、日本語に熱心に取り組んでいた学生がたくさんいました。GJOコーディネーターとして、そしてVMUの日本語教員として、どうにか卒業生たちが日本語に関われる機会や場所を増やしていきたいと考えてきました。

そこで、今年は中級学習者向けの夏期短期日本語コースをパイロット版として開講しました。このコースは読解、文法、発表、ディスカッション、レポート作成を含む内容で、6月21日から7月7日にかけ、全5回のオンライン授業を行います。コースを通じたテーマは「留学することの意義」です。VMUの現役学生と卒業生を対象に募集したところ、大学院生4名、卒業生4名、教員1名が参加してくれました。来月の活動報告日誌では、この短期コースの実施内容や参加者の声などを紹介したいと思います。

VMUのパートナー大学である岐阜大学も、今年4月に新たな授業を開講しました。その名も『リトアニア学』です。学生たちは15回の授業を通じて、リトアニアに関することを様々な観点から学んでいきます。同授業は複数の講師が講義を行っていく形式ですが、VMUからは5月24日にアウレリウス?ジーカス(Dr. Aurelijus Zykas)とリナス?ディドヴァリス(Dr. Linas Didvalis)がドキュメンタリー映画『カウナス、スギハラを、日本を想う(原題:Kaunas. Sugiharos ir Japonijos zenklai)』を上映し、制作陣として鑑賞後に解説を行いました。なお、この映画は現在Youtubeで全体公開されているので、ご興味のある方はぜひ下記リンクからご鑑賞ください。

https://www.youtube.com/watch?v=mgc9i3WE-io

また、6月28日、7月5日、7月12日はGJOコーディネーターの高木が担当します。6月28日の授業では、異文化理解をテーマに、外国人としてリトアニアで暮らす経験についてお話をしました。岐阜大学では現在、対面で授業が行われているため、学生が集まっている教室のPCと繋いでもらい、ライブ配信形式で講義を行いました。個別にPCから接続するオンライン授業と異なり、学生が自由に発言する(チャットに書く)ことができないため、参加学生がコメントや質問をしやすいように、事前にLINEのオープンチャットでルームを作り、当日はそこに質問を書いてもらいました。普段から使い慣れているアプリケーションのお陰か、多くの学生が気軽に質問をしてくれました。授業後に参加学生からもらった感想をいくつか紹介します。(すべて原文のまま記載しています。)

  • (前略)英語を母語としてないもの同士の繋がりみたいなものがある、というお話や、なんでも自分で行動?意思表示をしたり、自分の存在をアピールしたりすることが大切だ、というお話が印象に残った。英語の授業を受けていると、発音もきれいで自信を持って話している仲間に憧れる一方で、消極的になってしまう自分がいるので、恐れずにもっと自分の意見を主張していきたいと感じた。
  • 普段の講義ではリトアニア人の方であったり、過去にリトアニアへ訪れた方のお話を聞いてきましたが、今回は実際に現地で生活をされている日本人の先生にお話を聞くことができ、さらにリトアニアの大学の内実などを知ることができました。非常に充実した授業でした。(後略)
  • リトアニアにいつか行ってみたいと思ったので店員さんの対応や街の様子などを聞くことができてためになりました。留学に限らず、これからの学生生活に行かせることもあるので今日習ったことを実践しようと思いました。

様々な学部?学年を対象としている授業だけあって、リトアニアへの関心や留学に対する考えも様々です。この授業を通じて、リトアニアへの興味を深めてくれる人が増えてほしいと思っています。

7月5日には、前述の夏期短期日本語コースとの合同授業として、発表及びグループディスカッションを、続く7月12日は、カウナスの杉原記念館(Sugihara Museum)の協力を得て、『スギハラハウス?バーチャルツアー』を開催する予定です。

5月 活動日誌

2021年6月8日
GJOコーディネーター 高木 伽耶子

「長かったオンライン授業からようやく解放される!」無事に2021年の春学期の授業を終えた学生の一人が、そんなことを言っていました。たくさんの人にとって、とてもしんどい学期でしたが、そんな中でも休まずに授業に参加した学生は本当にすごいなと心から思います。また、どうしても元気がなくなって授業に思うように参加できなかった学生も、どうか夏休みの間に心身の疲れを癒して、また来学期元気な顔を見せてほしいです。

さて、5月はオンラインの日本の大学生との日本語交流会からスタートしました。今回はVMUだけでなく、広く「リトアニアで日本語を学ぶ人」として募集したため、ヴィリニュス大学から多くの学生が参加した他、ギムナジウム(日本の中学?高校に相当)からも2名の申し込みがありました。また、日本の大学からは、岐阜大学、手机赌博官网_外围足球app-游戏平台、佐賀大学の学生らが参加してくれました。少人数のアットホームで話しやすいイベントを意識したため、1回の参加者が20名以内になるように人数を調整し、日本時間の15~16時と20~21時の二部制で行いました。当日、リトアニアからは10名、日本からは15名の学生が参加し、日本語での会話を楽しみました。イベントにはZoomを使用し、ブレークアウトルームに分かれて2~3人で「自己紹介」「趣味?好きなもの」「リトアニアのオススメの場所」「日本で食べてほしい料理」などのテーマについて話しました。できるだけたくさんの人と話せるようにと、頻繁にグループを変えましたが、参加者からは「盛り上がってきたところで変わってしまった」「もっとじっくり話したかった」という声もあり、この辺りは次回以降もう少し工夫が必要だと感じました。リトアニア側の参加者の中には、このイベントで初めて日本語母語話者と話すという参加者もいて、開始前は楽しみよりも不安が強かったようですが、「日本の学生が優しかった」というコメントがあり、良い経験になったようです。このイベントが単にリトアニアの学生が日本語を練習する場で終わらず、日本の学生にとっても意義深い機会となったのは、多く参加者が「日本語を母語としない人とコミュニケーションを取るにはどんな工夫が必要か」を十分に考えながら取り組んでくれた結果だと思います。「教える―教わる」の関係ではなく、お互いを想い合って伝え合う機会を今後もたくさん作っていきたいと思います。

交流会の参加者(15時のグループ)
交流会の参加者(20時のグループ)

そして、学期末といえば最終課題です。日本語?文化レベル6のクラスでは、3年間の集大成として、プロジェクト「東アジアの言語を学ぶ意義を知る動画作成」を行いました。学生はグループまたは個人で、東アジアの言語を勉強している人にインタビューを行い、その様子をビデオに撮影し、そのインタビューから自分たちがどのようなことを学んだかをまとめ、一本の短い動画を作成するというものです。インタビュー言語は学生たちが自ら選び、日本語以外の音声にはすべて日本語字幕をつけるよう伝えました。動画はYouTube上に公開し、授業の最終日には動画作成の中での気づきを発表したり、YouTubeのコメント欄に寄せられたメッセージや質問に答えたりする時間を設けました。提出された4本の動画はどれもユニークな方法で撮影?編集されており、内容も興味深いものばかりでした。その中でも特に注目したいのは、三人の学生が製作した街頭インタビュー風の動画です。その中で学生たちは「weeb」という言葉について質問します。「weeb」とは日本文化に極端に傾倒する白人を揶揄するネットスラングだそうですが、私はこの動画を見るまで、そのような言葉や概念があることを知りませんでした。学生たちが作った動画を通じて、日本語をはじめとする東アジアの言語を学ぶ人々が、他人から「weeb」と呼ばれるのを不安に思っていることを知りました。最終日の授業で、動画を作った学生たちに「ある人が『weeb』であるかどうかを決めるのは誰か」と問いかけました。一人の学生は「社会が決める」と答えました。そして、学生たちはしきりに「私たちは『weeb』ではない」と主張していました。他者にどのように見られるかを強く意識する若年層にとって、ただ好きな言語を一生懸命に勉強しているだけでこのようなレッテルを貼られることは非常に辛いことだと心から同情します。しかし一方で、「私たちはweebじゃないけど、あの人たちはweebだ」という分断が果たして良いことなのだろうかという疑問もあります。その点について、私も含め、学生も一緒に考えてほしいというメッセージを伝えて、最後の授業を終えました。

学生たちが作った動画は下記リンクより見ることができます。(*発表期間が終わったため、学生が動画を削除している可能性があります。)

https://youtube.com/playlist?list=PLLVHGekk8TIFWRVvh1B4nKAW4ohcKTNZM

4月 活動日誌

2021年5月5日
GJOコーディネーター 高木 伽耶子

Covid-19の影響を最も受けた職業の一つは、間違いなく観光業でしょう。リトアニアでも観光業は非常に重要な位置を占めており、特に杉原千畝と所縁の深いカウナスは、日本との行き来ができなくなったことで、多くのイベントが中止や変更を余儀なくされました。

リトアニアで日本語を学ぶ人の中にも、ガイドや通訳など観光に関わる仕事に進む人が多くいます。リトアニアの日本語学習者にとって、時間をかけて学んだ日本語を生かせる貴重な職業なのです。もちろん、日本人旅行者グループのガイドや添乗員として働くには、それ相応の日本語知識やコミュニケーションスキルが求められます。しかし、リトアニア国内で中級以上の日本語を学ぶことができる教育機関はほとんどありません。現役の日本語ガイド達は、皆独学でその腕を磨いてきましたが、その経験やノウハウは共有されてきませんでした。

その現状を変えるために立ち上げられたのが「日本語ガイド教科書プロジェクト」でした。教科書を作るにあたり、現役ガイドの経験を基に、重要な9つの場面を日本語の会話として切り出し、それぞれの場面で必要な語彙や表現を整理しました。また、練習問題は単なる表現練習にならないように、ガイドとしてどのように行動すべきかを問う発展的な質問をたくさん含めました。中級レベルのリトアニア語話者を一番のターゲットに据えた教科書ですが、できるだけ多くの学習者に利用してもらえるよう、単語と会話はリトアニア語と英語の訳をつけました。

そうして完成したのが、リトアニアで初めての日本語ガイド向けの教科書『Vienas vienas…キコエマスカ』です。Vienasとは数字の「1」を表すリトアニア語です。著者の一人である本学の日本語講師シモナ?クンぺは、プロのガイドとしての資格を持っています。彼女がバスツアーの最初に決まって行う「Vienas vienas…キコエマスカ」というマイクチェックの決まり文句がそのまま教科書のタイトルになりました。

本学のアジア研究センターでは今までに、リトアニア語?日本語の辞書リトアニア語話者のための日本語独習教材が作られてきました。この教科書も、日本語を学ぶリトアニア語話者の役に立てるような教科書になること期待しています。そして、この教科書で身につけたガイドとしての知識やスキルを活かせるような日が、一日でも早く来ることを心から願っています。

また、今月末には2019年、2020年と交流を続けてきたチェコのマサリク大学との共同日本語コミュニティ『チェリ会』のオンライン交流会が再スタートしました。久しぶりの会には新メンバーを含む16名が参加し、自己紹介の後、お勧めの日本語の勉強方法を紹介し合いました。このオンライン交流会は、今後も2週間に1回のペースで開催される予定です。

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